2017年08月31日

欧州見聞録8日目前編〜英国の名門厩舎で見る、知る、考える〜


やっぱり、自分の知識だけで書く文章と、実際に現場を見て書く文章では全然中身の密度が違うんだよね。
そりゃそうなんだけど。

ドバウィがかわいいとか、ニューアプローチの歩様がかわいいとか、こういうことも現場に行かないと知れなかったこと。

足を使う重要性を改めて痛感。

しかしニューアプローチの歩き方はかわいかった。後ろ脚を回すように歩くと言えば分かるかな。
不思議な歩様だった。




さて、8日目。まだ1週間だ。長い。




1日目
欧州見聞録1日目〜北京は広いよどこまでも〜
http://ouma-keiba.seesaa.net/article/452476475.html

2日目
欧州見聞録2日目〜無職inパリ〜
http://ouma-keiba.seesaa.net/article/452476967.html

3日目
欧州見聞録3日目〜ペリエという日本人〜
http://ouma-keiba.seesaa.net/article/452691011.html

4日目
欧州見聞録4日目〜アレ・クリストフちゃんとの邂逅〜
http://ouma-keiba.seesaa.net/article/452846110.html

5日目
欧州見聞録5日目〜パリの空の下、無職は歩く〜
http://ouma-keiba.seesaa.net/article/453052285.html

6日目
欧州見聞録6日目〜競馬の聖地・ニューマーケット〜
http://ouma-keiba.seesaa.net/article/453056874.html

7日目前半
欧州見聞録7日目前編〜ドバウィと戯れる無職〜
http://ouma-keiba.seesaa.net/article/453056927.html

7日目後半
欧州見聞録7日目後編〜英国が誇る構ってちゃん・ニューアプローチ〜
http://ouma-keiba.seesaa.net/article/453112676.html



ニューマーケット3日目。今日も元気だ身体が軽い。

朝6時。普段だったらこんな時間に目覚ましなしで起きることなどない。興奮していたんでしょう。

フロント女性『今日も行くの?好きねぇ!』

好きなんですよ、競馬。普段からいつやめようとか考えてるけど。


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さすがに3日目ともなると、ニューマーケットの空気に慣れてくる。
この空気感、好きだ。


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ウォーレンヒルから戻り、ホテルで朝食。
イギリスはメシがマズいというが、全然そんなことはない。
フツーにおいしい。

こちらの食材事情もなんとなーく分かってくる。
牛乳が安い。おいしい。大きく分けて3種類売ってるけど、どれもイケる。

ニューマーケットだけなのかは分からんけど、缶ビールが瓶ビールより高かった。理由は分からん。



朝食も食べたし、ホテルチェックアウト。
ホテルはできて100年以上らしく、増築の繰り返しでひたすら階段の連続。スーツケース運ぶのに苦労する。


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ホテルの掃除機までいちいちオシャレ。かわいいなこの掃除機。


ホテルには本当に助けられた。タクシーの手配から夜食まで作ってくれたり。
午後までスーツケース預かっていてもらえるか聞いたら、二つ返事でOK。フロントの女性は言う。

ニューマーケットは馬に情熱を持つ人を常にサポートする街です

最高の街だ…住みたい…

聞いてみると、フロントの女性のお兄さんもホースマンらしい。ここはそんな人ばかりなのね。




ニューマーケット3日目の最初の勉強の場所はここ。


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ベッドフォードステーブル


ハイライズやファルブラヴ、アルカセット、ポストポンドなど数多くの名馬を輩出してきた、ルカ・クマーニ厩舎だ。


イギリスは日本と違って、厩舎は調教師の持ち物。調教師が既存の厩舎を買うシステムのため、厩舎の中をどう改装してもいい。

このベッドフォードステーブルはニューマーケットで特に古い厩舎の1つで、一番ニューマーケット側にある。
ホテルを挟んでジョン・ゴスデン厩舎があったりと、周りには大厩舎が立ち並ぶ。


日本でお世話になった方が昔クマーニ厩舎で働いていた縁で紹介してもらって実現した、クマーニ厩舎見学。

普通はレースやスタリオンは見学できても、厩舎までは見ることができない。こういう貴重な機会を与えていただいたことにただただ感謝。



案内していただいたのは、クマーニ厩舎のスタッフ、キャットさん。笑顔の素敵な女性だ。

事務所に通されると、そこにはクマーニ厩舎を支えてきた数々の名馬たちの写真が。これだけでもすでに感動モノ。

そこで事務所の奥の席にいた男性から握手を求められる。

うわぁ…クマーニ先生だ…

ドバウィに会ったり、英国屈指の名伯楽と握手したり、なんだかスゴい経験ばかりさせていただいている気がする。


クマーニ先生の愛犬・ジェシーにもご挨拶。

このジェシーがとにかくかわいい。そしてとんでもなく賢い。
厩舎スタッフみんなに愛されていて、クマーニ厩舎のマスコット的存在。
初めて会った俺にも甘えてくる。かわいい。




キャットさんの案内のもと、クマーニ厩舎見学スタート。


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無職『この厩舎の建物、いつからあったんですかね?』
キャットさん『100年前にはあったようね。300年くらい前じゃない?(笑)』

なんだか桁が違うぞ。


厩舎スタッフとすれ違うたびに挨拶。いい雰囲気。なんというか、一つの家族みたいな空気感。
家族のようですね?と聞くと、キャットさんは笑顔で『ええ、私たちはクマーニファミリーよ』と言う。

とてもいい雰囲気の厩舎と聞いていたけど、本当だ。



厩舎にいたのは80頭弱。

まず驚いたのは今回この80頭を、1頭1頭見せてくれたこと。
しかも実際触らせてくれたり、筋肉の説明や、性格、戦績も教えてくれる。

80頭近くの性格や戦績をほぼ覚えているキャットさん、何者なんだ…



厩舎内はもうね、見るモノ全てがカルチャーショック


扉が開いている馬房がある
馬に出て行っていいよ、と言わんばかりに開いている。
でも馬は勝手に外に出たりしない。

開いている馬房に、厩舎のアイドル・ジェシーがトコトコ入っていく。
鼻面を合わせたり、お互いをなめ合ったり、馬とフツーに遊びはじめた。
信じがたい光景だ。

担当者が口笛を吹くと、馬が馬房から出てきた。
そこに鞍を付けて、調教へ。

何だこれ…


馬はみんなおとなしい
おとなし過ぎる。みんな借りてきた猫。かわいい。
キャットさんが近づくと、それに気づいて馬から寄ってくる。

馬が舌を出す。キャットさんが馬の舌を掴む。そして舌を握りながら、ブランコのように、手を左右に動かし始めた。

何だこれ…

しかも馬が喜んでいる。ように見える。明らかにリラックスしている。
『こういう遊びもあるのよ』
なるほど…
日本ではまずお目に掛かれない…


馬の後ろに人が立っている
日本ではありえない光景。日本はまず『馬の後ろに立ってはいけない』と教えられる。
『こんなこと、日本ではありえません』と言うと、キャットさんは笑いながら『これが私たちの普通よ!』と言う。

馬はおとなしい。人が後ろに立っても蹴る素振りなどまったくない。
すぐに担当者に甘えたりしている。
何だこれ…


馬房に寝藁が敷かれていない。変わりに新聞紙が敷いてある
寝藁が敷かれている馬房しか見たことがなかったから、新聞紙が敷き詰められていたのにはビックリ。
新聞紙を細かくして、それが敷き詰められている。

『新聞紙を使用する理由は、馬の呼吸に影響を与えないようにするため』
ほう。衛生的な意味もあるみたいだけど、馬の呼吸に影響与えないための策が新聞紙なのか…

実際歩くと柔らかい。寝藁とそこまで変わらない気はする。
日本でも美浦トレセンの入院馬房に新聞紙を敷き詰めてあると聞いたことがあるけど、こういう世界があるんだな。実際見ると見ないでは全然違う。


紹介の仕方が日本と違う
日本は『オルフェーヴルです』みたいな感じで、まず名前を言う。
英国はまず『グッドボーイ!』『ナイスフィリー!』と言って、その後に馬の説明に入る。

例えば、ポストポンドの妹を紹介された時は、『グッドフィリー!』から入り、ポストポンドの妹という説明がされ、その後に戦績の話になり、次に血統、そして筋肉とか、性格の話になる。

これは確かにグッドフィリーだと思った。何よりおとなしくてかわいい。こちらに近づいてきて、なめてくる。かわいい。

未勝利の馬には笑いながら『slowly(笑)』と言うけど、愛情がこもった言い方。

もちろん日本のホースマンの皆さんも馬に愛情を持って接されているし、愛情を持った呼び方をされている。
でもさすが競馬の生まれた国だった。これが400年競馬やってる国か。


馬と人の距離が近い
『グッドボーイだから後ろに立っても大丈夫だよ!』とか、そういう一つ一つのスタッフの発言に馬と人との距離の近さを感じさせられる。

キャットさんはまず近寄ってきた馬にキスをする。馬も分かっていて、顔を寄せてくる。
あぜんとしていると、キャットさんが『やってみなさい!』というから、初めて馬とキスした。
なんか申し訳なくなった。




1頭1頭説明してもらい、結局2時間くらい勉強させていただいた。


ちょうど翌週に日本でも有名なグッドウッドフェスティバルがあったけど、やはりこちらの日とはグッドウッドのフェスティバルを使うことに誇りを持っているらしい。
『グッドウッドで使うの!』と語るキャットさんの顔は誇らしげだった。


ファルブラヴの話にもなり、ファルブラヴが住んでいた馬房も紹介される。
中は古いけど、出口の隣、明るく涼しいいい馬房だった。ここでファルブラヴは育ったのか。ここから日本に遠征したのか…


『このガリレオ産駒の前脚は…』とか、『昨日ドバウィを見てきたなら、このドバウィの子、ここが似ているでしょう?』とか、『オアシスドリームの子どもは英国だとこうなる』とか、聞いた話は書ききれないくらい。


一番馬体で衝撃的だったのは、ファストネットロックかな。産駒は3、4頭いて、みんな胴が短くない。決して前腕中心に発達していない。

日本は逆。胴が短く、前腕が発達する。

育て方なのかもなぁ。毎日ウォーレンヒルの坂路上がってると、腰と後ろ脚が鍛えられる分バランスが良くなるのかもしれん。

日本でファストネットロックの傾向が全体的に似るのは、血統的なもの以上に調教の場所、やり方が影響しているのかもしれない。


そういうことを考えながら、色々質問すると、キャットさんは全て分かりやすく、丁寧に答えてくれる。
前日のMr.ペルシーもそうだけど、英国のホースマンの優しさが身に染みる。


厩舎内の放牧地(!)まで見せてもらうありがたさ。厩舎内に放牧地がある時点でまず日本ではありえない…

厩舎のアイドル・ジェシーはそこらへんに遊びに行く。
馬房に勝手に入って馬と遊んだり、厩舎脇の庭に転がったり、植木の中に入っていったり…

キャットさんが『ヘイ!ジェシー!』と呼べば、ジェシーはホイホイやってくる。賢い。
うちの実家の犬は呼んでも来ないぞ。




クマーニ厩舎のオフィスに戻り、トロフィーや厩舎のレジェンドたちの写真を眺める。当然ファルブラヴやアルカセットのジャパンカップもあった。

ファルブラヴの写真を見ていると、クマーニ先生が言う。『彼は私が管理した馬では最高だ』と。

クマーニ先生の暖かい雰囲気は、どことなく厩舎の暖かい雰囲気とダブるものがある。


クマーニ厩舎と言えば、天才、ランフランコ=『フランキー』=デットーリが育った場所で有名。
デットーリはクマーニ厩舎からデビューし、クマーニ厩舎で育った。


『デットーリは世界最高の騎手だと思います』と言うと、クマーニ先生始め、スタッフはみんな笑う。

クマーニ厩舎にとって、デットーリは世界最高の騎手であり、未だに若いころのイタズラ小僧という認識らしい。


彼もこの建物で育った


そうクマーニ先生が言う。


100年以上ニューマーケットを見てきた事務所は、天才デットーリの成長も見てきたのかと思うと、ただただ感動した。



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クマーニ厩舎の皆さんは、先生やキャットさん始め、皆さん丁寧で親切。
家族のような暖かい雰囲気を持った、素晴らしい厩舎だった。


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キャットさんと。
『また厩舎に来なさい!』そう言われると嬉しい。

遠く日本から、クマーニ厩舎を応援しています。





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クマーニ厩舎で育成の現場を学んだ。


次に見るのは、調教の現場。


よく分からない縁で、『サー』の称号を持つマーク・プレスコット厩舎の調教の見学をさせていただく機会に恵まれた。



馬たちはまずはニューマーケットの街の入口、クマーニ厩舎の隣にある一周400mくらいの周回コースでウォーミングアップ。

このコース、幅が狭い。施設としては日本のそれよりレベルが低い。

1頭1頭、スピードはハッキングくらいだけど、念入りにウォーミングアップをこなしていく。



ここで気になったのは、このウォーミングアップの馬場の隣にある駐車場。

調教師用』と書いてある。

確かによく見ると調教師らしき人が数人、ウォーミングアップ馬場で馬を見ている。
調教場の丘のほうにも数人見かけたけど、こっちのほうが人は多かった。

ここなのかな、ポイントは。
管理馬の多い調教師はまずここで馬を見て、馬の状態を見る。

日本だと坂路小屋で、坂路を上ってきた馬をチェックする調教師も結構いることを考えると新鮮。まあ日本でもウォーミングアップ重視の調教師は多いだろうけど、ウォーミングアップ施設の隣に駐車場があることには色々考えさせられた。


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この日もウォーレンヒルはいい天気。


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ライダーたちは皆笑顔。
クマーニ厩舎同様、こちらも厩舎の雰囲気は良さそうだ。


ここで気づくのは、ライダーみんなステッキを持っていないこと。


無職『何でムチ持ってないの?』
スタッフ『ムチで心臓は強くならないでしょう?


なるほど確かに。

日本は調教でもステッキ入れて一杯に追ったりして時計を出すけど、こちらはレースが近い馬へ負荷をかける調教でも、ステッキなしで、一杯に馬を追ったりしない。


集団調教…ムチを使わない馬なり調教…どこかで聞いたことがある…


そうだ、藤沢和雄厩舎だ。


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ニューマーケットの調教のやり方は、本当にそのまんま、藤沢和雄厩舎のやっていることだった。

若き日をこの地で過ごした藤沢先生はニューマーケットのやり方を日本に持ち込んだパイオニア。
当時は馬なりを否定する厩舎人も多かったと聞く。


今目の前で繰り広げられていた調教で、追われている馬は1頭もいない。時計を意識的に出したり、時計を計算しながら調教に乗っているスタッフはいない。


日本の、坂路で50秒くらい出すやり方も、日本競馬に出走させるという意味ではアリだと思う。
でもそこまで強くやって時計を出さないといけなかったら、イギリスの馬たちみんな弱いよね。

つまり、速い時計を出す意味があるのか?という話。

スタッフの言うことを総合すると、結局調教は『積み重ね』。紙を1枚ずつ積み重ねるように、継続すること。

このウォーレンヒルという力のいる上り坂を毎日上って、帰る時もタフな道を歩いて、馬の運動量は日本の数倍と言ってもいい気がする。

持久力、心臓の強さという意味で、こんなことやってる国相手に日本馬が勝つのはなかなか難しい。そう思う。


もちろん調教で速い時計が出ている馬は『調子』という意味ではいい。
でもそれは一時のものであって、普段の、地道な運動量こそが馬を強くする、そうも感じる。


イギリスが生んだ数々のレジェンドたちも、こうやってウォーレンヒルの坂を上がっていったのか…と思うと感慨深いものもあったね。

そもそもここまで調教見せてくれるとは思わなかった。
厩舎見学の時も、ここまでやってくれるとは思わなかったし、そこもカルチャーショック。



そんなことを思いながらホテルに戻って大井競馬の最終レース観たら、ワタリセイユウ的場文男さんが天神乗りで1位入線していた。


これもまたカルチャーショックだった。


そして降着だった。ショックだった。





ということで前編終わり!



ニューマーケットのメインイベントを書いた後編に続く!
posted by cris at 19:30| Comment(0) | 海外見聞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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